2016年7月6日水曜日

2016夏 甲川(上の廊下)

整備された登山道を歩くこととは違う,道なき道を進む行為には,原始的な本能が目覚めることがある。その感覚が目覚めてしまったら,山への探究心を自制するのは容易なことではなくなる。一般登山道を歩くことは,社会の中でも認められた社会性のある行為だと思う。しかし,沢を遡行したり厳寒の吹雪を進むような行為を,社会が認めているようには思えない。その行為は自分勝手で,家族にも山岳会のメンバーにも心配をかけている。そこまでして何を求めて山に入るのか。いまだにその理由は分からない。理解されない行為だから,丁寧に説明する義務がある。登山計画を提出するまでの準備には,徹底的に気を使う。少しでも違和感を感じるところは,代表に助言を求める。メンバーの体力や環境によっては,辞退を促すことも稀ではない。「もしかして遭難するかもしれないという薄っぺらい不安」ではなく,下山するまで「遭難の危険を担ぎ続けている実感」を持っている。「行ってみたい」という軽い好奇心を背負うだけの責任感は,私は持ち合わせていない。警察署に登山計画書を提出してから取り付きに至るまでは,内臓が擦りあうような苦しさを感じる。そんなに苦しいのなら辞めればいいだけの話だが,そういうわけにはいかない。行きたいのだから。
1回目は水流に跳ね返されました
①日時:2016.7.5(火)
②行先:甲川(上の廊下)
③メンバー:Oe,Ad,Mk
④行動記録:
入渓(9:00)→中の廊下(9:30)→上の廊下(10:00)→堰堤(12:00)→林道(15:00)
⑤行動概況:
想定内と言い聞かせる水流
前回の甲川で,残した滝を目指して,牧草地から痩せ尾根を下る。ちょうど前回引き返した所に出た。水流が強いのは予想通り。上の廊下の準備運動にはちょうど良かった。今回は,F2でメンバーに役割をもって行動してもらう作戦。私がアブミを一段かけて戻り,Oeに2個のアブミをかけ替えて突破してもらう。私はセカンドで上がり,Adにはアブミを回収してもらう役割をお願いした。まずはF1。水流が強いが想定内。ゴルジュストロングスタイルで泳ぎで突破。フリーで滝を乗り越しロープで2人を引き上げる。残置のリングボルトは抜けており使用不能。F2はOeが軽く突破。Adはセルフビレイをとり,レストをとりながら見事に役割を果たした。今シーズン,このメンバーとたくさん山を共にした成果もあってか,この核心も,そしてそこから続く巻道も,楽しく通過することが出来た。堰堤に上がり生米から炊き込みごはんを炊いた。おかずはいつものあれ。綺麗な景色を眺めたり,周辺を片付けたりしながらゆっくり時間を過ごした。
堰堤の上部にてゆったりとした時間を過ごす
インスタントの松茸の吸い物でもすすって帰ろうと,もう一度湯を沸かす。そして,このインスタントのマツタケの吸い物が,1人の命を救うことになった。熱々に煮沸された吸い物を,飲みやすいように冷めるのを待った。飲み干して綺麗に片づけ,出発しようとしたところ,Adが沢を下ってくる登山者を発見する。いつもなら無視して先に行くが,何か引っかかることもあった。「完全に迷ってしまいました。助けて下さい」トレラン姿の彼ははっきりとした口調で私たちに訴えてきた。私たちと出会わなければ,そのまま堰堤を下り,上の廊下に入りこむところだったようだ。「その格好で入り込んだら死んでたよ」私のその言葉を聞き,彼に恐怖と安堵が一気に押し寄せてきたのか,膝から崩れ落ちた。体調も良好なので,メンバーが所持していた飲み物や行動食を摂取させ,林道までの行動を共にした。香取のPで反省会と次の山の打ち合わせをしてメンバーと別れた。私は遭難者を米子まで車で送っていくことにした。話を聞くとバスで大山寺まで行き,そこから甲ヶ山まで縦走し,甲川に降りてきたようである。甲川から迷い,沢を下ると道に出ると思い下ったとの事。俗に言う,「よくあるパターンの奴」である。だが,その沢を下ると,人の気配がなく,ゴミも足跡も何もなく,社会から隔絶されたなんともいえぬ景色だったとのこと。不安感に襲われながらも,そのなんともいえぬ景色に,彼が魅了されていたのが表情から見てとれた。結果的に遭難と言うダメダメな山をやってしまった彼だが,彼は何かを見つけたような気がした。去年登山を初めたばかりだという。体力があるだけに,遭難の危険性は大きいと思う。もし,私たちが吸い物を飲まずに帰っていたら,彼はどうなっていただろうか。「水量が多いからやめよ~」と安易に山行を辞めてたら,F1の水流に流されることなく一発で抜けていたら,Adが写真をとりに行かず彼を発見しなければ,彼は助からなかっただろう。今回も色々なトピックスがあったが,全て吹き飛んだ。今回の一番は「彼の命を救うことが出来た」これに尽きるとメンバーで一致した。これも何かの縁と思い,今度の例会を見学に来るように誘っておいた。みんなで囲って叱り飛ばしましょう。

4 件のコメント:

  1. 地形も地図も読めなくても山に向かう。今はそいいう時代なのか。
    その遭難者の行動,呆れてものも言えんというか凄い人もいるもんだね。
    山を舐めていると言えばそれまでだが,とりあえず無事生還できて良かった。
    Mkたちに感謝せないけんな。
    私はリーダーを楽しんできた。苦しさを楽しみなさい。Mkはもう立派なリーダーだ。

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  2. 私は人生を遭難していましたが、YCCに拾っていただき感謝です。私も入会以前に、今回の彼と同じような目に遭ったことがあります。情報が簡単に手に入り、今までは特別な世界だった山岳の領域が、SNSなどの普及で、グッと身近な世界に感じるようになりました。便利になりすぎ、危険は増幅しているように思います。この山便りを読んで、YCCに入りたいと思った方には例会に見学に来て欲しいです。YCCは楽しい仲間がたくさんいます。私みたいなへそ曲がりもいます。先輩方は厳しいですが、厳しさの中に優しさがあります。

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    1. MKの言う通り情報が簡単に手に入る時代であり,登山に関するガジェットも急速に普及してきましたね。
      正味の話,コンパスより先にGPSを購入なさる方も多数いらっしゃいます。それが悪とは思いませんが。
      私が感じるに他人様が情報公開している山行は非常に魅力的に見え,自分も行きたい!見たい!感じたい!と思わせる何とも言えぬ魅力があります。そして『自分もいけるだろう・・』と思わせる何かがあるのかもしれません。
      『エライ目に遭った,誰も近づかないほうがイイ』なんていう情報はあまり見かけませんよね?
      山は絶対的な自己責任が前提です。それを踏まえ誤解を恐れずに言うのであれば我々は山を知る者として,感想や備忘録としてだけではなく【山行の絶対評価】的な情報配信が必要なのかもしれない。と今回の記事を読み感じました。
      駄文が長くなりましたが,非常に意味のある良い山行をなさったと羨ましく思います。

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  3. Kwの言う【山行の絶対評価】的な情報配信,必要かな?
    あくまでもブログは参考程度,ステップバイステップ,自分の足で経験を積み重ねていかないと。
    私は甲ヶ山から甲川への安全な下降路(昔は涸れた沢を降りていた),上の廊下のフリー突破,エスケープルート等いろんな事考え甲へ向かった。
    経験を積むと自信につながり,リーダーとなり人を連れて行くことができる。
    と言いながらも下降路ルート間違えて滑落事故,上の廊下の転倒事故,道迷い等たくさんの失敗もしてきました。
    身体動けるうちにいろんな経験したが良いよ。

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