2016年8月27日土曜日

2016夏 赤木沢アクシデント顛末記

準会員Oから「赤木沢アクシデント顛末記」が届きました。
大変面白い読み物?です。自分だったらどうしたのか?何故そうなったのか?いろいろ想像して読んでみて下さい。
ちなみに彼は国体山岳競技少年女子の優勝監督のキャリアがあり読図には精通しているのですが…
『赤木沢』この刺激的な山旅
~最上の楽園を楽しみ,その後に待ち受けた“落とし穴”について~
8月21日太郎平小屋を早朝に発つ。私としては,4時起床を目指していたが,出発時に確認すると3時過ぎであった。早いに越したことはないと思いながら,そのまま薬師沢に降りる。もちろんまだ暗い。空は満天の星。
薬師沢小屋6時到着。かなりの人出だ。黒部の沢に向かう人も1名ある。沢靴に履きかえて,そのまま出発。先行の御仁はかなり速い。とても追いつけないが,先方に姿が見えると安心だ。黒部川は水量が少なく渡渉も簡単であり,何度渡ったであろうか。少なくとも10回は下らない。それも一度ならずとも足を取られ,全身を水に濡らしたが,気温からすると何のこともない。人は面白いもので,渡るべきところはおおよそ先行者と同じとなることはうなずけるが,歩く河原も大体決まったルートとなり,先行者の濡れた足跡が残っている。
最後に高巻きをして赤木沢出合に至る。これまでにも見慣れた景観だ。少し中に踏み込むと,その魅力たる美しさが現れる。それは筆舌に尽くしがたく,この報告書のテーマともなりそうにないので、ただ“最上の楽園”とのみ記すこととする。
大滝に8時到着。T氏の言っていた5時間を少しばかり短縮する。もっとも沢の中も,その時々に立ち止まることもなく,休憩はしたものの,ただ通過するだけで写真の1枚も撮ってはいない。次の機会に,このたびの同行者2嬢をお連れしたいものだ。大滝上部の沢最終ポイントまでは快適な山行であった。ここまでは。
(これより図を参考に)
沢の最終ポイント「◎」から登山靴に履きかえる。通常なら「①」のルートを採るのだが,このたびは「北ノ俣岳」を迂回するために「②」のルートを採ることとした。これが大きな間違いを呼ぶ。この一帯は草原野とはいえ,ところどころハイマツが群生している。正確ではないが,図中の網目部分がそれであったと思われる。それを突破するにはかなりの体力と根気を要する。私は,最初の段階でそこから脱出した際に,大きな過ちを犯す。想定「△」のポイントで位置確認なり,方向確認をすればよかったが,ハイマツ帯の処理に気を取られ,それを怠った。その結果,「③」のルートを採ってしまった。このことは当初より気をつけなければならないと考え,T氏もそのことを言っていた。おまけに私は,図中の「点線」を本来の尾根筋(赤木岳~北ノ俣岳)と勘違いしてしまった。標高を見ればわかりそうなものだが、思い込みとは恐ろしい。私は思い込みがかなり強い方だ。したがって,変だと気がついても,図中の周辺を当てもなく登山道を探すこととなる。
10時になった。この時点で軽いパニック状態。同行者2嬢とは太郎平小屋で12時の待ち合わせ。それもどうやら怪しくなってきた。それでも初期の間違いに気が付かないため,無意味な登山道捜索を繰り返す。そのうちに,一瞬“剱”が見えるがすぐに隠れる。頼みの“薬師”“黒部五郎”もガスの中に消えてしまった。
12時になる。現在地が分からないため、絶望的になる。GPSを持ってくれば良かった。ケータイを持っていたら良かった。これまでT氏にオンブにダッコでいたことを後悔する。同行者2嬢は心配しているだろう。悪いことをした。「エエイ,ドウニデモナレ」
14時。私は明らかに「遭難」を自覚する。ビバークのため,付近の池塘から水をくむ。食料は朝弁当の残り。しかし,身の危険は全く感じなかった。幸運なことに,また陽が燦々と出てきた。
寝っ転がって考える。台風が近づいているな。ヘリは飛べないだろうな。救助されたら,もう山は止めなければならないかな。“んーん,まてよ。救助隊にはこうなったことをあらかた説明しなければならないだろうな”私は地図を出して,もう一度眺めてみる。と同時に,今まで気がつかなかったスカイラインが目の前にある。
人間は諦めと同時に,落ち着きが肝心だ。現地点2,450m,西方向にそれより高い尾根があり,その前には大きな沢がある。私は,今“赤木平「×」”の上に居る。14時30分。わかった以上,行くしかない。さらに幸運が味方する。赤木平を降りると,そこには水が流れている。池塘の腐った水を飲まなくてもよい。尾根には人影が見える。間違いない。それでも,標高差250m。「④」のルート。なんと苦しかったことか。
尾根にたどり着く。登山道上に出る。もう捜索隊はいらない。長く苦しい歩み。17時30分太郎平小屋に着く。Ak嬢が涙で出迎えてくれた。I嬢もほっと安心した表情だ。 
“ごめんね、2人とも” この日は,初の山小屋連泊にてこの長かった1日を終えた。
(文責:O)

3 件のコメント:

  1. 先日の納涼会での報告ありがとうございました。私は「黒部の山賊」の話とリンクしながら聞きました。
    行動することで何かを感じ,知り,学習できる。主体的であればあるほど,単独行であればあるほど。
    このブログ,大山で始まり大山で終わればと思ってましたが,そうもいきませんね。

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  2. 強い人は失敗を糊塗しない。率直に公開し「どこがマズかったか」考察を共有させて下さるOに感謝し尊敬します。読図の達人も地図を出さなければ私達並みの道迷いを…。道でなくそもそもバリエーションだから尚更です。
    かの山域は外側の稜線こそ所々で携帯の電波が届きますが内側はほぼ全く届かず小屋相互の連絡も無線のみで、単独行は緊張を強いられます。今回Oの予定されたルートは私も次回歩くつもりでいますのでたいへん勉強になりました。

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  3. 投稿者です。Ysの言葉に感謝します。これまで幾多の失敗を重ねてここまで来ました。それを自負としています。
    YCC_teraへの感謝と補足。報告文中出てくるTとは、私の先導者です。彼は最もよく大山を知り、大山を愛する人です。その大山の中で私をここまで引き上げてくれた。したがって、この拙い報告は大山の結実とも言えませんか。

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